テーパー治具 当たり不一致の検証 ― まとめ:三つの要因が重なって生じた違和感の正体
前編では、「見積時の認識のずれ」 が、後にどのような問題を生み得るのかをお話ししました。
中編では寸法はすべて公差内=良品 でありながら、
わずか 0.063°の角度差 が “感触の違い” として現れていた事実を検証しました。
では、なぜ今回のような違和感が生まれたのか。
最終回となる今回は、その全体像を整理し、この案件から得られた本当の学び をまとめます。
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■結論:今回の当たり不一致は「一つの原因」ではなかった
結論からお伝えしますと、今回の当たり不一致は 単一の原因で起きたものではありません でした。
次の三つの要素が、同時に重なっていたのです。
- 情報伝達のズレ(伝言ゲーム)
- 使用環境による感触の差
- ごく僅かなテーパー角度差
どれか一つだけであれば、ここまで大きな違和感にはならなかったかもしれません…。
しかしこの三つが重なったことで「良品であるはずの治具」が疑われる状況に発展してしまいました。
■① 情報が届いていなかった ― 多段商流で失われた“前提条件”
今回の製品は、
A社(加工業者)
→ 萬代(商社)
→ B社(商社)
→ C社(ゲージ製作業者)
→ D社(ユーザー)
という、複数社を経由する商流 でした。
この流れの中で、弊社から見積段階で明確にお伝えしていた
- 「テーパー80%当たりは保証不可」
- 「寸法保証を前提とし、当たりは結果として成立する」
という重要な前提条件が、最終ユーザーであるD社様まで正確に伝わっていなかった可能性が高いことが分かりました。
その結果、ユーザー様側では、「80%当たりは検査・検証されているはず」という認識が生まれてしまっていたのです。
これが、今回の問題の最初の火種でした。
■② 現場環境が生んだ“もう一つの誤解”
4社合同で行ったWEBミーティングでは、ユーザー様から次のようなお話がありました。
なお、この治具は工作機械のスピンドル位置を調整するために使用される治具であり、
実際には加工機を設置している現場へ持ち込んで使用される製品です。
「組立現場でスピンドル位置調整がうまくいかず、この治具を疑った。
しかし社内に持ち帰り、他の機器で行うと問題なく調整できた。」
スピンドルの位置調整は、
- 設備の状態
- 主軸のクセ
- 固定方法
- 雰囲気温度
など、使用環境の影響を非常に受けやすい作業 です。
現場ではうまくいかなかったことで「治具に問題があるのではないか」という疑念が強まり、
それが今回の再検証依頼につながっていました。
この “環境起因の不安” が、二つ目の要因です。
■③ そして最後に判明した、物理的な要因 ― 角度差0.063°
中編で詳しくお伝えした通り、再測定の結果、すべての寸法は公差範囲内でした。
しかし、テーパー角度だけが僅かに異なっていました。
- テーパープラグゲージ:11.408°
- 無印品:11.441°
- ×印品:11.378°
その差、わずか0.063°。
高精度が寸法管理を求められる微細加工品では、この差が 当たり感に直結する“十分すぎる差” となります。
ユーザー様が感じられた「片方は問題ないが、もう片方は違和感がある」という感覚は、
まさにこの角度差が生んだ 物理的な現象 でした。
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■改善策 ― “再発しない仕組み”をつくる
今回の検証と協議を通じて、各社で次の改善策に合意しました。
- テーパープラグゲージを基準に、挿入しながら加工調整を行う
- テーパープラグゲージ自体の寸法差を防ぐため使用するゲージを一つに固定する。
- 加工業者Aの検査担当者を固定し、感触の再現性を高める
これにより、「寸法は良品なのに、当たり感が違う」という事象を、仕組みとして防ぐ体制が整いました。
■今回の案件が教えてくれたこと
「 ミクロンの世界では、情報もまた精密でなければならない」
今回のケースは、ものづくりの現場で起こりがちな課題が、いくつも重なって表面化した事例でした。
- 情報が一つ欠ければ、誤解が生まれる
- 環境が変われば、感触が変わる
- 角度が0.06°違えば、結果が変わる
この三つが重なった結果、本来は良品である治具が疑われる状況 になっていました。
技術の世界では、どうしても「数値」や「加工精度」に目が向きがちです。
しかし今回、改めて強く感じたのは、前提条件を正しく、最後まで共有することの重要性 でした。
どれだけ高精度な加工をしても、前提が共有されていなければ、評価は簡単にすれ違ってしまいます。
■おわりに
今回の対応を通じて、ユーザー様・商社・加工業者様の間で、品質をどう評価するかという前提を共有することができました。
ミクロンの世界の治具は、寸法も、角度も、環境も・・・
そして コミュニケーションもまた精密でなければならない。
そう改めて気づかせてくれた、非常に学びの多い案件でした。
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